Fourier

RLC回路の話を、数式をできるだけ使わずに、もっと直感的で初心者にも分かりやすいように解説しますね。

RLC回路って、身近なもので例えると何?

電気回路の話はイメージしにくいので、まずは**「ブランコを押す人」**に例えてみましょう。

  • あなた(電源): ブランコを押す人です。一定のリズムで「押して、引いて」を繰り返します。
  • ブランコ(回路): あなたが押す対象です。
  • 溜まる電気(電荷): ブランコがどれだけ高く上がったか、その「高さ」だと思ってください。

このブランコには、3つの「邪魔者」がいます。これがRLC回路の R(抵抗)L(コイル)C(コンデンサ) にあたります。

  • R(抵抗): 空気抵抗や摩擦のようなものです。ブランコの勢いを単純に弱めます。エネルギーを消費する正直な邪魔者です。
  • L(コイル): **ブランコの「重さ」や「慣性」**です。急な変化が嫌いで、動き出すのに少し時間がかかるし、一度動き出すと今度はなかなか止まりません。天邪鬼(あまのじゃく)な性質を持っています。
  • C(コンデンサ): **ブランコの「バネ」**のようなものです。押されると、その力を溜め込んで「ぐっ」と押し返そうとします。電気を一時的に溜めるタンクの役割です。

1. 「定常状態」って、どんな状態?

あなたがブランコを押し始めた瞬間を想像してください。

  • 最初の数回(過渡状態): ブランコはグラグラと不規則に揺れたり、あなたの押すタイミングとズレたりしますよね。これが「過渡状態」です。回路で言えば、スイッチを入れた直後の不安定な状態です。

  • しばらく押した後(定常状態): やがて、あなたの押すリズムとブランコの揺れるリズムが完全に合ってきて、毎回同じ高さまで、安定して大きく揺れ続けます。これが「定常状態」です。

つまり、定常状態とは、回路が電源のリズムにすっかり馴染んで、安定した電気の波がずーっと続く状態のことです。私たちが知りたいのは、この安定した状態のときに、ブランコが「どのくらいの高さまで(振幅)」「どんなタイミングで(位相)」揺れるのか、ということです。


2. 定常状態での電気の振る舞い

さて、あなたが一定のリズムで「押す、引く」を繰り返すと(正弦波の電源)、安定して揺れるブランコ(定常状態の回路)では何が起きるでしょうか。

振幅(どれだけ電気が溜まるか)

ブランコの高さは、あなたの押し方と、3人の邪魔者(R, L, C)の邪魔の仕方で決まります。 回路でも同じで、コンデンサに溜まる電気の量(電荷の振幅)は、電源のパワーと、RLCの邪魔の度合い(専門用語でインピーダンス)によって決まります。

面白いのは、コイル(L)とコンデンサ(C)の邪魔の仕方は、あなたの押すリズム(周波数)によって変わることです。

  • 速いリズムで押すと…: コイル(慣性)は「速すぎてついていけない!」と強く抵抗します。
  • ゆっくりなリズムで押すと…: コンデンサ(バネ)は「じっくり溜められる!」と、たくさん電気を溜め込んで大きく押し返そうとします。

このバランスがちょうど良い特定の速さ(共振周波数)で押すと、ブランコがものすごく大きく揺れるように、回路にも非常に大きな電気が流れます。

位相(タイミングのズレ)

ブランコを押しても、あなたが「押した」瞬間にブランコが一番高くなるわけではありませんよね?少しタイミングがズレます。

回路でも同じように、電源が「今が最大パワーだ!」というタイミングと、コンデンサの電気が満タンになるタイミングには、少し**ズレ(位相のズレ)**が生じます。このズレ方も、3人の邪魔者のバランスによって決まります。


3. なぜ「フーリエ級数」なんて難しい道具を使うの?

ここまでの話は、あなたが「押す、引く、押す、引く…」と綺麗なリズム(正弦波)でブランコを押す場合でした。

では、もしあなたの押し方が**「グッ、グッ、(休み)、グッ、グッ、(休み)…」**のような、もっと複雑なリズム(矩形波など)だったらどうなるでしょう?ブランコの揺れ方を予測するのは、とても難しそうですよね。

ここで登場するのがフーリエ級数という魔法の道具です。

フーリエ級数は「音の分解」に似ている

オーケストラの「ジャーン!」という複雑な和音を聴いたとき、耳の良い人なら「今の音は『ド』と『ミ』と『ソ』の音が混ざっているな」と分かります。

フーリエ級数は、これと全く同じことを電気の波で行います。

フーリエ級数の役割: どんなに複雑な形の波(電圧)でも、「綺麗な波(正弦波)A」+「綺麗な波B」+「綺麗な波C」… という単純な波の足し算に分解してくれるのです。

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分解できれば、あとは簡単!

RLC回路は「素直な」回路なので、**「重ね合わせの理」という便利なルールが使えます。これは、「別々に考えて、後で全部足し算すればOK」**というルールです。

つまり、複雑なリズムの電源が来ても、慌てる必要はありません。

  1. 【分解】 まず、フーリエ級数を使って、複雑なリズムをたくさんの「単純なリズム」のセットに分解します。

  2. 【個別計算】 次に、分解された一つ一つの単純なリズムに対して、回路がどう反応するか(ブランコがどう揺れるか)を計算します。これは、私たちがすでにやり方を知っている簡単な計算です。

  3. 【合体】 最後に、全部の計算結果を足し合わせます。すると、元の複雑なリズムに対する最終的な答えが手に入るのです!

結論として、フーリエ級数を使うのは、一見して手に負えない複雑な問題を、たくさんの「解き方を知っている簡単な問題」に分解して、一つずつ片付けていくための、非常に賢い作戦なのです。

Update History
  • 2025-07-03: Corrected a technical error in the second paragraph.
  • 2025-07-02: Added a new image and fixed typos.
  • 2025-07-01: Initial publication of the article.